7. 村瀬純一の死
それから1ヶ月後が経過して、冒頭のように、村瀬純一は岡田美子の部屋で死んでいたのだ。美子が、昨日の夜、ブレーン社の勤めを終えて、例によって別のサイドビジネスの前哨戦を演じて、相方と一眠りをしてから、今朝方の午前5時に自分のマンションに戻り、キーを空け、自分の部屋に入った時に、村瀬の死体を発見したというのだ。
母親の民子は、一昨日から季節替わりの風邪から肺炎となり、病院に入院している。その間に村瀬が、持っていた合い鍵で美子の部屋に入ったということらしい。
何故、自分の部屋で村瀬が死んでいるのか、見当が全く付かない。自殺では決してない。他殺か、他殺なら、犯人はどこから入って、どこから出たのか、その痕跡すらない。合い鍵は、村瀬以外には渡してはいない。これは、間違いのない事実である。しかも密室状態での、殺人である。
では、岡田も母親の民子も留守の間に、誰が美子の部屋に密かに入り、そして誰が村瀬に青酸ソーダを盛ったというのか。
その死体は凄惨を極めていた。ドス黒い顔の、死んだ目は虚空を睨み、両手は首筋を掻きむしり、首にミミズ腫れさえ起こして硬直している。ズボンの後ろには大小の便を漏らしたらしいシミと強烈な臭いも放っている。
余程苦しかったのだろうか、辺りの床には吐血と胃からの吐出物が辺り一面に散らばっており、加えて異様な臭気をも漂わせている。
美子は、思わず卒倒しそうになり、秘密部屋の母親に助けを求めたが、勿論のこと不在だ。会社に行くどころではない。
村瀬を一目見たときから尋常ならざる感情の高ぶりを押さえきれなかった彼女は、自分が村瀬を揺すって金を取ったことを深く反省し、そのことが今回の結果を招いたのだとしか、自分には考えられなかった。
村瀬を思う気持ちと、自責の念に支配されて、美子のデリケートな精神は放心状態に漂っている。どうすればいいのか、彼女には判断が付かない。2、3時間もウロウロするばかりだ。
そして、その朝9時過ぎに、心配した田村昭子から、出勤してこない岡田に電話があったという訳である。
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