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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  5.「流れ星」  Back Number 保存庫

              

 

                 

3. 村瀬物産

 

 

岡田美子は、秋元の目の前でアポ取をしたが、その結果、8社目でアポが取れた。主に女性向けの衣料品を、中国に縫製委託して、完成した製品を日本で販売するという商売をしている村瀬物産鰍フ社長に、今日、午前11時の約束を取り付けた。

 

 

村瀬物産は、大阪地下鉄・長堀橋駅で下車して、4番出口から地上に出た、道路の向かい側にある。自社ビルの「村瀬ビル」の2階に、受付があるという。その次にアポの取れた会社は、雑貨の友田貿易と女性下着販売の木村商事だ。今日の仕事は、その村瀬物産、友田貿易、木村商事の順で3社に訪問して売り込みを掛け、最低1社でも受注には持ち込めればいいかと考えた。

 

 

早速、岡田は、地下鉄難波駅から地下鉄御堂筋線に乗り、心斎橋駅で乗り換えて、長堀橋駅に着く。村瀬ビルは、目立つガラス張りのファサードに、鏡のようなステンレスの丸柱のあるハデなビルで、すぐに目に入った。この自社ビル2階の受付にと向かう。

 

 

岡田美子は、化粧が濃い目の、少し肥り気味で、何となく陰のある受付嬢に名刺を差し出し、村瀬社長に面会を申し出る。受付嬢は、面倒くさそうに電話を社長に入れて、指示を仰ぐ。そして、彼女は、受付嬢から応接間に通され、ソファーに座るよう案内された。ソファーは革張りだが、柔らかくダークグリーン色をしている。趣味の良さを感じる。

 

 

岡田美子は、ハンドバッグから手鏡を取り出し、サッサと化粧崩れを直し、服装の乱れも整えて待つ。暫くして、社長の村瀬が一人で部屋に入って来た。村瀬は、32、3歳で、背が高く、一重のスルドイ目付き、浅黒く引き締まった顔に白い歯が印象に残る。先程の受付譲とは対照的に、シャキッとした雰囲気でオーラが感じられる若い社長だ。村瀬物産の二代目だろうか、村瀬の風貌を一目見てから、彼の雰囲気に飲まれて美子は一瞬ゾクッとするものを下半身に感じた。

 

 

「はじめまして、私が岡田美子です。お忙しいのに、お時間を取っていただいて、ホントに恐縮ですわ。村瀬純一社長さま」

と明るく快活に言う。

「どうして、私の名前を知ってるの」

「はい、今朝の御社の広告に村瀬純一と社長さまの名前が書いてありましたわ」

「ああ、そうだったなあ。いきなり、名前を呼ばれたんで、ビックリしたがな。よう、そこまで調べて準備してきたなあ。ちょっと、君に親しみが持てたよ」

 

 

 そう言って、お互いに名刺を交換する。事前に調べておいた社長の名前をフルネームで呼ぶというのが、相手に近親感を持たせる、ブレーン社の営業テクニックの一つだ。今日も上手く事が運び、初対面ながらも、お互いに気持ちは一歩近づく。

 

 

「電話でお話を致しましたように、当社の媒体に、製品広告をお願いしたいのですが。村瀬純一社長さま、いかがでしようか。新聞広告なんかよりも比較にならないほど、効果が高いと評判ですのよ」

「製品広告やてー、なんで効果が高いんや」

「はい、テーマ取材方式を採用した、記事風の製品広告ですし、当社の媒体は、50万部という部数の集合媒体が、直接に顧客の手元にまで届けられるハンドオン・システムですから、パワーが強いのです。今朝の新聞に出稿された、村瀬社長様の会社の製品広告の3倍は効果がありますわよ。これは、私が断言致しますわ」

 

 

 相手の目を見て、その奥にある脳髄を掴む思いで、念を込め、岡田はセールスする。

「ホンマかいなあ、ハンドオン・システムで3倍も効果があるってかー。じゃあ、費用は、どんだけするんや。美人の岡田はんの、折角のお勧めやさかい、ほんなら1回だけ、やったろかなあ」

この村瀬の一言が、村瀬と彼女の運命を変えることになろうとは、美子は想像すらしなかった。

 

 

その後に、訪問した2社からは、折角訪問したにも拘わらず、押し売り同然に、けんもほろろに追い出され、媒体説明をするどころではなかった。こんな事は、しょっちゅうあったので、美子は別にどうとも思わなくなっていた。

 

 

 この広告の制作過程には、次回のテーマ企画説明と見積書の提出に始まり、そして取材、原稿プレゼンーション、文字校正、ゲラ色校正と校了、請求書提出、掲載見本誌提出と実に、この後約一ヶ月掛けて、7回も村瀬に会って、一緒になって仕事をすることになっている。当然、顔を合わせる回数も多くなるから、出会う度に人間関係も密になる。

 

 

 とりわけ村瀬に好意を持っていた、岡田美子は、長堀橋に行くのが楽しみになる。また、理性では押さえきれず、知らず、知らず自然に体が火照るのを自覚するようになる。

 

 

「おはようございます。村瀬純一社長さま。今日は、最後の色校正ですから、念入りにご覧になって下さいませ」

とシャッキッと元気に言って、校正紙をテーブルの上に広げる。

「岡田はん、うちの製品のなあ、このミニスカートの黄色は、向日葵のようにもう少し鮮やかにして呉れへんかなあ」

と校正紙に顔を近づけて言う村瀬に、岡田美子も同じように顔を近づけて、校正紙に見入る。村瀬の、頭髪からは品のいいラベンダーの香りがする。一瞬、岡田はクラクラッときたが、辛うじて理性を保つ。そして、無事に原稿は校了となる。

 

 

 「美子はん。本音やけど、今回のこのテーマ取材した記事広告やけどなあ、これは仲々いい出来やで。反応がワシも楽しみや。反応のハガキがなあ、550枚を越したら、岡田はん。ワシが、夕食を奢りたいんやが、どや受けて呉れるやろ」

と村瀬は地金を出して満足そうに言う。

「あら、いいですわね。勿論、純一様となら、喜んでご一緒させていただきますわ」

と胸を張って答える。そして、体の芯から何かが走るのを、美子は感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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