9. 住之江署の取調室
秋元の予想通りだった。それから即に、田村昭子は、週明け月曜日の午後に事情聴取をしたいから、署に来るようにと、住之江署の関根刑事から電話で呼ばれた。
「前にも、言いましたように、両手をだらりと下げて、目も据わって、異様な雰囲気でした。ええ、勿論、手には何も持っては、いませんでしたが」
「部屋に誰か人がいませんでしたか。或いは、誰かが隠れているような雰囲気があったとか、何か気付かれませんでしたかねえ。どうですか」
「確か、部屋には、私と岡田さんの他には誰もいませんでした。無論、隠れているような気配とか、物音も全く、しませんでしたわ」
「矢張りそうですか。ああ、それから、警察に第一報を下さったのですが、その前に、誰かに言いませんでしたかねえ、事件のことを」
「そうでしたわ。課長の秋元さんには、一番最初に、電話をしました。だって、勤務中でしたし、課長の許しを得て、美子の部屋までタクシーを飛ばしたのですよ。当然でしょ」
「成る程ねえ。ところで、秋元さんとは、どういうご関係ですか」
「えっ、どういうことですか。課長と課員と言うだけで、何もありませんわ」
「そうですかねえ。話は別ですが、田村昭子さん。先週の金曜日の夜には、秋元茂と、そこのファッション・ホテルのレスポワールに居ましたね」
「ええっ、何を仰るのですか、何のことですか。いませんわ、そんな処に。誰か、別人でしょ」
「いえ、貴方のその顔は、目立ちますからねえー。それに、前に会社に伺ったときに、秋元茂にも、私は会いました。先週の金曜日の夜、9時過ぎに私が見た2人は、間違いなく貴方と秋元です。私の目に狂いはありません。愛用のデジカメでも撮影もしましたよ。何だったら、お見せしましょうか」
突然に、真実を言われたので、昭子は思わず赤面している。
「それに、ご存じなかったようですが、ここの住之江署から、レスポワールの入り口は丸見えなんですよ、昭子さん。ワッハハハー」
「えっ、ホントですか」
昭子は、観念した。更に、続けて刑事が言う。
「それに、ラッキーなことに、レスポワールの経営者の謝文夫君は、私の友人でねえ、貴方の顔を見てスグに、謝君に電話して、盗聴器も部屋に仕掛けて貰ったのです。あなた達が入った部屋は、実は盗聴器付きの部屋だったのですよ。お陰で、大変に激しいのも聞かせて貰いましたよ。貴方達の会話は、残らず全部、録音されていたのです。どうですか」
「ええっ。本当ですか・・・・・・。それでどうすれば、いいのですか」
「秋元茂のことです。その後、何か言っていませんでしたかねえ」
「何をですか」
「実はねえ、村瀬純一が飲んで、こぼしたコップの縁に、小さな小さな小鳥の羽が一枚、付着していたのです。秋元は、小鳥を飼っているでしょ」
「さあ、見るのが趣味だとは聞いていましたが、詳しくは、知りません」
「我々も、テープで聞いたあなた達の会話から知って、昨日の日曜日に、美子の部屋のからくりも全部確認しました。
だけと、殺人の方法が、密室殺人の仕掛けが、今ひとつ、分からないのです。明日ね、秋元を逮捕して吐かせますが、その前に、貴方から先に、事前に調べて、裏を取っておきたかったのですが。そうですか、ご存じないか」
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