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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  5.「流れ星」  Back Number 保存庫

                

 

                 

4. 村瀬の招待

 

 

 それから、2カ月後の初秋に、テーマ取材本の「ムック」が、予定通りに発行された。問題の、広告反応数は、何と549枚だった。美子は、北村英子以外の、営業2課の同僚達である、吉田、中野、田村という3人の住所氏名を借り、書体を変えて記入したものを紛れ込ませて、返信ハガキを552とした報告書を作成する。

 

 

 しかし、いずれにしても、この程度の広告で、返信が500枚以上というのは、ブレーン社の媒体の中でも、事実、素晴らしい成果である。折角の、村瀬の申し出を無駄にはしたくなかったから、今回は、神様は許していただけると念じて、岡田美子は掲載見本誌や請求書と共に報告書類をひとまとめにする。そして、銀杏の葉が色づき始めた今日、金曜日の夕方5時、村瀬と会う約束だ。

 

 

 彼女は、北陸特有の、色が白く、見た目ほっそりで、鼻が細くて高い。顎が少ししゃくれて、二重の目は切れ長で大きく、瞳は薄い茶色だ。彫りが深いので鼻から目にかけて、少し、ロシア系が入っているように見える。母一人、子一人の家庭で育った薄幸の人だが、真面目な努力家である。父親は、彼女が小学生の頃、外に女を作って家庭を放り出した。母親の民子は、雪深い柏崎で、学校の給食婦をしながら美子を育て、そして、我が子の幸せだけを願い、美子にだけはと、大阪の短大まで卒業させたという人だ。

 

 

美子は、雪が嫌いで、小さいときから、柏崎を出て大阪で働くのを夢見る。大阪が、父親の出身だったからだ。そして、いま夢が叶い、広告会社ブレーン社の第一線営業レディーとして活躍する日々となっている。今のご時世だから、男関係が無かったといったら嘘になるが、学生時代を含めて4、5人の男性と付き合い、その内2人とは肉体関係を持ったが、美子には、何か物足りなかった。だから、それ以上には発展することはなく、今は一人だ。

 

 

 村瀬物産に、約束より少し遅れて着いた。

「ごめんなさい。約束より少し遅れましたわ」

「反応数が足りへんよって、それで今日は、もう来てくれへんのかいなあと思ってたがなー」

「お約束通りの552名の書類と、掲載見本誌、それに大事な請求書ですわ。フル・カラー4頁のテーマ企画の返信ハガキ付きですから、合計で650万円になりますわ。純一社長さま、どうぞ、よくお確かめになって」

 

 

 美子の今日のファッションは、いつもの濃紺のOLスーツでなく、シルクの淡いセピア地色に、渋い色の薔薇の花柄模様で、裾の広がったワンピース。淡い白のタイツに白のハイヒール。美しい顔に良く似合った、ノースリーブで胸の膨らみがよく映える、シック&エレガンスなファッションだ。イヴサンローランの薔薇の香りがほのかに漂う。

 

 

「君の言うた通り、新聞広告の4倍の反応になったなあ。岡田君の御陰やで、ありがとう」

「ありがとうございます。私もホッとしましたわ」

「美子はん、お金はなあ、締め日に、指定の銀行に振り込むように、経理の部長に指示しておくさかい、安心しいや。それから美子はん、今日はもう会社に帰らへんでもええんやろ。そんなら、早速いきまひょか。車を持ってくるんで、下でチョット待ってて呉れへんか」

そう言って、下で待つ岡田美子の前に、シルバーグレイのBMWスポーツを乗り付ける。

 

 

「今日は、美子はんは、お客様やから」と言って、助手席でなく、リアシートに彼女を座らせて、車を加速する。紳士的な配慮に、美子も安心する。

 

「南港のホテルなんや。友人がオーナーシェフをやっている、美味しフランス料理店があるんや。年代物のワインもなかなかのもんやで。佐藤知也という名でなあ、ワシの早稲田時代の友人や。卒業と同時にフランスに渡って、知己のあったカルチェ・ラ・タンの4つ星レストランで8年間修業したんやてー。おとうはんも料理人や」

 

 

『南港なら打ってつけだわ』と心の中で、彼女は相槌を打つ。

普段の村瀬になく、低い艶のある声で饒舌に語る。

「それになあ、美子はん。ご時世やなあ。佐藤君の方が、実質の年収額はワシより多いんやで」

「せやけどなあ、8歳年下の若い奥さんと、最近離婚しょったんや。なんでも、顔はかわいいが、大変気の強い子で、相性が悪うてなあ、どうにもならへんかったようやで。確か、名前は、北村英子とか、言うとったよ。えつ、ワシか、ワシは勿論、まだ独身やがな。ああ、ここや、ここや、着いたで。あんたになあ、ワシは参ってしもうたわ。ワッハッハッ」

 

 

 ここで、村瀬の口から、北村英子の名前が出るとは想像もしなかったが、岡田美子は、純一との浅からない因縁を胸に感じたが、北村のことは、言わずに伏せておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

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