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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  5.「流れ星」  Back Number 保存庫

 

 

              

             

10. 仕込まれた手乗り文鳥

 

 

 

翌日、秋元は逮捕され、住之江署の関根刑事から厳しく取り調べを受ける。頑として、口を割らなかった秋元も、田村昭子が吐いてしまったと、嘘の話で誘導尋問され、気の弱いこともあって、とうとう、経緯を吐いてしまうことになる。それは、次のような、驚くべき方法だったのだ。

 

 

 

関根刑事の質問に、彼は答えていう。

「私は、小鳥マニアになってしまったのです。子供の頃、秋祭りの神社の境内にやって来ていた、見せ物小屋や食べ物屋に混じって、私は、ある老人が見せる、手乗り文鳥の芸を見ていました。手乗り文鳥が、老人の突っつく箸先の合図で、老人の手の中に置いてあった[おみくじ]を、金を払って見ている客の目の前まで運んでいく、という素晴らしい芸でした。その手乗り文鳥の芸を見てからと言うもの、私は、その虜になってしまったのです。母親に、小鳥を飼いたいからとせがみましたが、貧しかったので、母はそんなものに、つぎ込む金の余裕がある訳がありませんでした。当然です」

 

 

 

それで、どういう方法なんだよと、刑事が急かせる。

 

「成人して、会社勤めをするようになってから、子供の頃の夢を叶えようと、僕は住之江の小鳥屋で手乗り文鳥を購入しました。そして、子供の頃に見た芸を、仕込み始めたのです。引き出しに入っていた、おみくじではないですが、手頃な形と大きさの物として、小型の風邪薬のカプセルを選び、それを文鳥にくわえさせて、部屋の隅に置いてある、ガラスのコップに入れるという訓練をはじめたのです」

 

 

 

「最初は、巣箱の中で訓練していました。出来るようになってから、逃げられては困るからと、部屋の窓を閉め切って、僕が使っていた八畳間でやります。帰宅後には、毎日、毎日、僕の日課となっていったのです。妻との間も疎遠になり、諍いも起こります。手乗り文鳥の大好物の、椎の実を用意しておいて、カプセルを喰わえることが出来たら椎の実を一粒やり、これを何回、何回も繰り返して、好物の木の実で釣って、訓練するのです。今では、手に載せた文鳥の尾羽に触るだけで、僕の手乗り文鳥は、同じ手の上に置いてあった、カプセルを喰わえて、部屋の隅に置いてあるコップにそれを落とし、そして再び手の上に戻って来るという芸が、完全に出来るようになりました」

 

 

 

驚くなかれ、大好物の椎の実に釣られて、秋元の手乗り文鳥は、今では、完璧に、これをやってのけるまでに訓練が出来ていたのだ。

 

 

再び、関根刑事が急せる。

「それで、薬はどうしたのだ」

「西脇に住んでいた子供の頃のことです。友人から、彼の家にある小瓶に入った、或る粉末の薬品を貰って、一緒に川に遊びに行ったものです。ほんの少しだけ、川にその粉を落とします。すると、魚が一杯、浮き上がって来るのです。こんな遊びを、友達とよくしていました。その薬ビンは、大事に今でも持っています。いつ、役に立つかもしれないと思っていたからです」

 

 

 

「西脇では、その子の家は裕福で、割と大きなメッキ工場を経営していましたよ。当時は、何んの粉末か、知りませんでしたが。後日に、それが青酸ソーダだと知りました。メッキ工程の洗浄液に使っていたのです。しかし、面白いように、魚が浮き上がってきましたよ」

「それが、とうしたというのだ。どういう方法で、村瀬をやったのか、早く結論を言えよ。おい、お前」

 

 

 

「はい、済みませんでした。岡田美子と村瀬が結婚するかもしれないと分かって、村瀬の殺害を決心しました。理由は、刑事さんが聞いた録音テープの通りです」

「それで」

「はい、岡田美子の部屋の、ドアの新聞受けの処まで、来た私は、丁度、都合良く村瀬が部屋にいることを知ったのです。タクシーを飛ばして、市岡の家に置いてある手乗り文鳥の入っている鳥籠を取りに帰り、人知れずに、それを抱えて再び、ここに戻りましたよ。覗くと、村瀬はまだ部屋に居て、コップでビールを飲んで、酔っていました」

「成る程、それで」

 

 

 

関根刑事が、結論を急かす。

「この時のためにと、用意しておいた、青酸ソーダの小さなカプセルを出して、私のキャリーバッグで自宅から運んだ鳥籠から、手乗り文鳥の、かわいいピー子を取り出しました。普段から訓練しているので、飛び立たないし、さえずることもしません」

「そして、普段の訓練のように、ピー子にカプセルを喰わえさせて、村瀬の飲んでいたビールのコップまで運ばせたのです。その時、村瀬が小鳥に気付いて手を挙げたときに、小羽が落ちたのでしょう。これが、失敗でした。後は、刑事さんの推察の通りです」

 

 

 

 

<エピローグ>

 

 

 

『そして、この事件の関係者の処分は次の通りとなった。秋元茂は、第一級の殺人者として起訴され、現在裁判を受けている。岡田美子と民子は、売春防止法違反と恐喝容疑で、現在もまだ取り調べ中であるが、岡田美子の精神状態がすぐれない為に、取り調べが長引いていると聞いている。

 

 

 

一方、田村昭子は、事件とは無関係であると判明して、勿論、無罪となった。そして、驚く無かれ、彼女の一番最初の男であったという、高松に飛ばされた田淵一彦と所帯を持ったというのだ。実は、田淵が、宮下春子との関係を偽装して、本当に好きだった昭子を退職されないようにと、工作していたのである。その昭子は、大変に辛抱強く、賢い女性で、秋元を上手に誑かして、彼が岡田から分捕った金の半分以上は、実は田村昭子がくすねていたのだという。もしかして、秋元も、この田村昭子に踊らされていただけかもしれない。四国の高松で、田淵一彦との間に一子も授かり、落ち着いた、悠然たる生活を送っている、この田村昭子こそ、事件の首謀者だったのではと、筆者は想像している。

 

 

 

何、私ですか。私は、岡田美子の好きだった村瀬純一の友人である、佐藤知也です。この小説は、村瀬君へのレクイエムであります。村瀬君、どうぞ安らかに眠り賜え・・・・』

 

 

 

今日も、岡田美子は、西の空にひときわ大きな流れ星を見つけて、胸の前で手を組みつつ、じっと暗い空を見上げ、流れ星の軌跡を目で追いかけている。その目尻からは、一筋の涙が零れる。

                          

 

 

            

 

 

             完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             

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