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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  7-後.「いのちの電話」後編 Back Number 保存庫  

 

 

 

              

12. 恐怖の電話

 

 

 

 

 

 昨夜は、隣室からの睦声もなく、久しぶりに熟睡した沢田は、爽やかな朝を迎える。東を向いている窓から差す朝日が、とりわけ眩しい。朝の支度を済ませて、早めに寮を出る。外に出て、南方向に3分も歩けば、通りの右手に「ラビー」という喫茶店がある。白い壁に、オレンジ色をした半球形のテント出屋根のある、その喫茶店に入る。東向きの店で窓が大きいから、朝日が入る明るい店だ。朝7時から開店している。沢田と同年輩の378歳の美人のママが切り盛りしている。

 

 

 

ここは、沢田の行きつけの店で、飲み物は、コーラ、オレンジジュースの他に、アメリカン、ブレンド、モカコーヒーから選べる。食べ物は、ハムサンド、トースト、クロワッサン、野菜サラダ、蒸し卵から選べるというセルフサービス方式になっている。ママも無口で、必要なことしか口を開かない。態度も押しつけがましくなく、座る場所も食べ物も自分で選択できるのが、沢田の好みに合っている。朝から、色々喋られると、一日中疲れるからだ。

 

 

 

今日は、アメリカン・コーヒーとハムサンドにする。ハムサンドは、柔らかいフランスパンにレタスが二枚と厚めにスライスしたロース・ハムが一枚入っている。コーヒー・カップは、飾り気のない生地が厚めの白い磁器製で、取っ手が大きくて持ちやすい。朝食は、毎日ここで摂ることに決めていた。コーヒー代が180円、ハムサンドが200円で、合わせても380円と安い。無駄使いは、極力しないように心掛けていたから、手頃なので助かる。外に出ると、太陽は既に高く登り始めている。

 

 

 

 

 会社の入り口には、守衛が2人おり、他の2人のチームと交代で24時間見張っている。敷地内に、24時間フル操業の工場が3箇所あり32交代で従業員が勤務していたからだ。この入り口で、全てが管理されている。勝手には出入りが出来ない。会社の役員や幹部社員といえども、外出する時は、上司印のある外出票を見せて、守衛の許可印を貰わないと外出できない。戻ってきて会社に入るときには、先程の外出票を出して、もう一度、承認印を守衛から貰うのだ。だから、守衛室では役員や社長の行き先も分かる仕組みになっている。社外に電話するときは、守衛室のカウンターに置いてある赤い公衆電話を皆は、昼休みに使っていた。職場の電話で私用電話を掛けることは、堅く禁じられていたからである。それほど、従業員は厳しく管理がされている。

 

 

 

 

 社外から、従業員個人に掛かる私用電話は、一旦は交換手が取り、その従業員を社内放送で呼びだして、外線電話を繋ぐと言う大変面倒なことをしていた。会社の機密が漏洩することや、外部から特定個人に電話で進入されることを、防いでいたのだ。だから、公衆電話以外の、外線電話は、電話交換室で自動的に録音されていたのである。

沢田は、昨日から取り掛かっていた、前期の決算記者発表に関する、想定問答集作成の仕事にも見通しが立ち、今日の仕事を無事に終える。今夜は、マドンナとの約束があるから、そろそろ退社しようと思っていた矢先、あろう事か、その社内放送が、沢田を呼び出したのだ。

 

 

 

 

「沢田課長、沢田課長。吉田という方からの、お電話です。お近くの電話から、交換の01番に至急にお電話下さい」

2回も繰り返して放送している。沢田はビックリして、課に3台しかない、電話の1つから交換に電話する。

 

 

 

「沢田課長ですね。吉田英子という女性からの電話です。今から繋ぎますから、暫くお待ち下さい」電話交換手がこう言う。交換手は、会社の受付嬢もローテーションを組んで兼ねていた。会社の受付は、社長の秘書的業務も兼ねている。だから、この話は、間違いなく社長にも伝わるに違いないと、沢田は観念する。

 「もしもし、沢田さん。私よ私。もしもし。沢田さん。今日はね、夜7時キッカリに西院の、昨夜のうどん屋の隣にある、松屋という名前のね、喫茶店に来てくれる。必ず一人で来てよね。約束したわよ。お店の方でなく、喫茶店の松屋の方にね。間違えないでね」

 

 

 

 

「鳥清」のマドンナから、私用電話だ。一瞬、マズイ、録音もされているぞ、と沢田は思ったが、もう仕方がない。しかも、あろうことか、この時を境にして、マドンナからの私用電話が、会社にいる沢田に頻繁に入るようになる。正に、恐怖の電話の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

連載ですから、保存庫の下にある、[1]〜[10]を順番に開いて、続けてお読み下さい。

 

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