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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  8.「 傀  儡 」 Back Number 保存庫 

 

 

 

 

              

6.合ハイ

 

 

 

 

 

 

そして、その日がやってきた。半信半疑ながらも、騙されているかも知れないが、久し振りの合ハイなので、また待ち遠しく思っていたから、皆の心もときめいている。何せ同志社の文学部の女性達だ。当時は、一番にランクされていた合ハイの相手先だからだ。寮生の殆どには、まだ彼女がいなかったから尚のこと、出会えるであろう女性のことを想像して、皆楽しみに思っている。

 

 

 

 

今のように、出会いの場が無かった当時は、合同ハイキングと称して、男側のグループの代表者が、女性側のグループの代表者と交渉して、ハイキングに行く場所と日程と大体の人数を、そして待ち合わせ場所を決めるのだ。比叡寮として色々と高望みをしてアレンジするが、大体の場合、断られるケースが多かったという。だから、今回の横山がアレンジしたという、このイベントは希有なことで、皆一同に横山を見直しして、内心では感心している。

 

 

 

 

 

「福田君、おいや。お前も今日は行くんだろ」

日向は、半袖の白ワイシャツに紺色地に白水玉という派手な蝶ネクタイをして、珍しく

お洒落をしている。鏡を見てネクタイの角度を直しながら、福田を促す。

「ああ、初めてだけど。行くよ。だけど、どうすればいいのか分からないので、教えて繰れよな」

「おいや、俺の横にいて、見ておれや。いい子がいたら、近づいて声を掛ければええのや。せやけど、こればっかりは、顔だけでなく話してみんとわからんからなあ」

 

 

 

 

  福田はブルー地に白の細いストライプの入った半袖シャツに、鼠色の長ズボン姿。これしか彼の一張羅はないからだ。彼は、女性に話すのが苦手なので、日向に頼ろうと考えていた。

「同志社の文学部というのは、どういうの。それから、誰々が行くのだい」

「京都では、一番人気だぜ。おいや、今日はワシも捜すで。ああ、行く奴か。川崎に、山下、水野、中野、若江、木村やろ、それから、森野、田村、橘に清水、えーと、そうや犬猿の坂本も確かめに行くいうとったなあ。後2人や、誰やったか。なんせ、俺とお前を入れて、確か15名やったぜ。座長の横山は、先に行って待っているようや」

 

 

 

 

 

 そして、この15名は運命の糸に操られるようにして、約束の待ち合わせ場所である京都駅の西口に市電で到着する。何故か、坂本だけが駅の待合室の方に向けて、我先にと走りながら近づいている。皆が、駅に着いた頃、今回のアレンジを担当した横山が、フラフラと皆の方に近づいて言う。例の笑顔だ。

 

 

 

 

 

「チミ達、ご苦労さん。だけど、残念なことが起きたのだよ。相手のリーダーの高田美子ちゃんが現れて来ないので、捜していると、駅の伝言板に、書き置きがしてあるのを見つけたのさ」

蝶ネクタイの日向が、何かを察して、でかい声で言う。

「何が、書いてあったのか、早う言えょ。おいこら横山」

横山は、まだヘラヘラ笑いながら日向に言う。

 

 

 

 

「じゃあ言うよ、『比叡寮の皆様

へ、残念ながら今日は合ハイは中止です』。こう書いてあったんだよ。だから、皆で折角来てくれたのに悪いけど、中止にするからね。それから、僕はチョット用があるので、これで失礼するよ」

それだけ言うと、堂々とした態度で市電の乗り場の方に向かって歩いている。それを見た、日向が怒鳴りつける。彼の蝶ネクタイもぶざまに曲がっている。

 

 

 

 

 

「オイコラ、横山。お前逃げるのか。横山、こら待て」

他の者は、呆気にとられて市電に乗り込もうとしている横山を見ている。

すると、先程、先に降りて走っていった坂本が戻ってくる。小柄で細い目をした、元々白い細い顔も、一層青ざめている。

 

 

 

 

 

 

「おかしいと思っていたから、先回りして俺は観察していたんだ。あんなペテン師野郎、見たこと無いよ。あいつが自分で伝言板の黒板に書いているのを見たぜ。俺は確かにあいつが書いているのを見た。間違いはない」

な、何ということか。福田すら、開いた口が塞がらない。ペテンというのはこういうことかと思う。

「おい、坂本よ。お前まで嘘をついているのじゃねえだろうな。おい、その伝言板とか言うのを見に行こうぜ。どうだい皆さんよ」

 

 

 

 

 

 

  福田も、相棒の日向の判断を成る程と思い、なかなか此奴は大した男だと、日向の機転の利かせ方に感心する。坂本の案内で、その伝言板まで来て黒板を見た比叡寮生は、坂本の報告に納得する。それは正しく、横山の書いた字だったからだ。彼の、嘘八百に皆が騙されたのだ。一番に気の毒なのは、相棒の日向だ。彼の蝶ネクタイも怒って縦を向いている。彼は、それもはずして、ポケットに入れ舌打ちして言う。

 

 

 

 

 

「おいや、あほくさ。もう今日は、焼けマージャンをしようぜ。もう帰ろ帰ろ。福田も帰ろうぜ」

皆もそやそや、と言って市電の乗り場の方に向かう。当時は、市電が通っており、7円でどこまででも行けた。福田は、どうするか迷っていたが、マージャンをする気もしないので、日向に言う。また何故か、残っておらなければならないような気持ちがしていたからだ。

 

 

 

 

 

「ちょっと、僕は本屋に寄ってから帰るわ。折角来たし、勿体ないからなあ」

「そうかい、お前はつき合いの悪いやっちゃなあ。ほんなら、そうせえや」

「スマン、スマン。申し訳ない日向君」

そして、連れだって帰っていく寮生達を、福田一人が見送ることになったというのである

 

 

 

 

 

 

後日談であるが、この横山は、「龍山」という号の、皇室御用達の抹茶茶碗の高名な陶芸作家という触れ込みで、造ったのか買ったのかは知らないが、駄作を一品200万円で主に中小企業の経営者に売り捌くという詐欺を働き、週刊誌を賑わす事件を起こした。何と言うことか、当時から、その片鱗が現れていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

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