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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  8.「 傀  儡 」 Back Number 保存庫 

 

 

 

 

 

              

5.談話室

 

 

 

 

 

 

食事が終わったので部屋に戻ると、相棒の日向は部屋にいない。殆どの部屋も、何故か空になっている。階下からは、ガラガラという音と、笑い声や、罵声が聞こえる。談話室の方からだ。階段を下りて、おそるおそる、木のドアーに近づくと、ドアーの隙間から、もうもうと煙が漏れている。思い切ってドアーを開けると、そこはマージャン屋と見間違える程に、ほぼ全員の者がマージャンをしているではないか。12畳の和室に、座卓のマージャン台が6台置いてあり、全部が埋まっている。相棒の日向も、畳にあぐらを組んで、元々の猫背を更に丸めて、夢中になって打っている。福田を見つけた彼が言う。

 

 

 

 

 

「おい、福田、こっちに来いや。教えたるから、俺の側で、見とれや。おいや、福田ええか。こっちに来いや」

また、得意の「おいや」である。顔に似合わず、いい奴だと、福田は直感で理解した。

マージャンなんぞしたことがなかった福田は、おそるおそる日向の側に座る。殆どの者は喰わえタバコだから、部屋の中は、せき込む位の朦々たる煙で満ちている。白黒TVも付けっ放しだ。ザ、ピーナッツがガンガンのボリュームで歌を歌っている。皆は、そのTVを見ながら、くわえタバコで、パイを積もっている。その時には、福田はまだタバコの味を知らなかったから、咳き込んでいる。

 

 

 

 

「どうすれば、いいのですか」

「二つの同じパイで頭を作ってから、三つずつのパイを並べていくのや。並べ方で役があるのや。役を覚えれば誰でもできるわさ。しもたー。振り込んだぜ、ドッヒャー」

割とじっくり考えて打っているのに、福田が側に来てから、彼のツキが落ちたようで、勝負をしては、ドンドン振り込んでいる。

 

 

 

 

「お前なあ、チョットあっちに行け。お前が来てから、ツキが落ちたぜ。おいや」

勝手な男である。しかし、本音で言うので憎めない。辺りを見渡すと、寮長の奥村もいる。勿論、玉谷義男もいる。その他は、建築科の学生で、川崎、祖来、吉田、西川等もいる。

 

 

 

 

  先程、飯を一緒に食っていた横山隆史は何故かいない。福田は、相棒の横を離れて、今度は同じ学科の同級生である、日向とは別の卓で打っている玉谷の側に付く。

「玉谷君、見ていてもいいかい」

「ああ、福田君かい。勿論いいよ。チョット沈んでいるんや。建築科の川崎と相性が悪いのさ」

川崎は覚えたてのようで、素人目にも打ち方が遅すぎる。玉谷は彼の性格らしく、セカセカと配パイしている。川崎の遅さに苛立っていたのだ。

 

 

 

 

「ヨッシャー、役満やで。大3元や、川崎のが当たりや。ヤッター」

福田が来てから、玉谷のツキが戻ったらしい。皮肉なものだ。とうとうトップに返り咲いた。玉谷は、上機嫌で余裕を持ちだした。そこで、さっきから気になっていることを聞いてみる。

 

 

 

 

「玉谷君、さっき飯を食ってた時に、東大から来たという、横山隆史と言う人に会ったよ。スゴイ人だね」

「横山か、アイツは大法螺吹きだから、本気で聞いたらダメだぜ」

「えっ、ほんま」

「そやがな、福田君よ。考えてみろよ、常識はずれも甚だしいだろ。彼と犬猿の仲の、坂本と言う奴が、東大に電話して調べたらしいのだが、そんな男は合格もしていないし、在籍もしていなかったということで、全くの嘘っぱちさ」

「ああ、そうなの。へえー」

配パイをしながら、相手の放銃するパイを見ながら、玉谷は話をしている。マルチな男だ。更に、横山の話が続く。

 

 

 

 

 

「その坂本となあ、横山が台所から包丁を持ち出して、ケンカが始まったのだぜ。福田君がこの寮に入ってくる、つい一週間前のことさ。寮長の奥村はんと日向が止めに入って、日向が包丁を奪って、事なきを得たんだよ。あの栃木っぺは、何をするか分からない奴だから、近づくなよな」

 

 

 

 

 

  それで、彼は、仲間はずれにされているから、一人で飯を食っていたという訳かと福田は理解する。

「ところで、福田君、その横山がなあ、同志社の文学部の女性を集めて、今度の日曜日に、合ハイを企画したと言ってるぜ。皆、半信半疑ながら行くつもりらしいよ。横山の力量を試しにいくという別の目的もあるのさ。僕は別の用があって行けないけどね。どう、福田君も試しに行ってみたら。ワッハッハー」

 

 

 

 

   耳よりの話を、福田は聞く。もう心は決めている。先程、横山にも会って話もしているから、自分が行っても不快には思わないだろうと納得する。そう言えば、食堂の黒板に、そんなことが書いてあったような気もする。

 

               

 

 

 

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