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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  8.「 傀  儡 」 Back Number 保存庫 

 

 

 

 

            

4.大きな食堂

 

 

 

 

 

 

 

 

  食堂は、炊事ができる6畳の板間と、それと直角に配置された和室の二部屋で構成されている。板間には、8 人が座れる椅子とテーブルが、和室には20人程が座れる長い座卓が用意してある。板間の北側にある炊事場は、28名分の食事を作る為の、大型のガスコンロが3台、広い長い洗い場、2つの水道栓、大型の釜や鍋、デカイやかん、おひつ、汁鍋が整備されている。その反対側の南側壁面一杯には、ガラス戸の入った幅広で5段になった棚があり、出来た食事は、ココに入っている。そして、全部に名札が付いている。人の分まで食べてしまう不逞の輩がいるからだ。大抵が、鰺、鯖、鰯、サンマ等の、魚の焼き物や煮付けに、豆類の煮物が添えられていることが多い。

 

 

 

  肉類は、一月に2回ぐらいしか出ない。今と同じように、肉が高価だったからだ。飯は、2つある特大のおひつから自分でよそう。大抵は皆どんぶり飯だから、1つでは足りない。みそ汁も、大鍋から自分で入れることになっている。飯と汁は、お代わり自由となっている。

 

 

 

 

寮生の殆どは、当然の事ながら家庭が貧しいから、比叡寮に入っている訳である。だから、住人の何人かは、夜間にも働いたり、アルサロでボーイをしたり、家庭教師を三軒掛け持ちしたり等で、夜中にならないと帰って来ない者もいる。だから、夕食は夕方の五時には、もう出来上がっており、自分の食事は五時からは食べて良いことになっているのであるが、夜の12時を過ぎると、残り飯は誰でもが自由に食べても良いことになっている。それでも、大抵は、いつも56個は残っていた。この解禁時間が来るのを先輩達が並んで待っていることもあり、寮に入った当初の頃は、遠慮深い福田に、残り飯にありつけることは、殆どなかった。

 

 

 

 

 

山科にある妹背という妙な名字の家の、出来の悪い高校三年の娘の家庭教師を終えて、寮に戻った福田は、急いで食事を摂る。初夏の夜10時頃のことだ。食堂には、一人の男だけが食事をしている。殆どの者は、もう食べ終えてたのか、他には誰もいない。今夜のおかずは、鰺の焼き物に大根おろしが添えられている。貧しい家に育った福田にとっては大変なおかずなので、骨から身を上手に剥がして、頭の骨の中やヒレに付いている小さな身までも、残らず食べ尽す。だから、皿にはホントに骨だけしか残っていない。

 

 

 

 

向かい側に座っている、のっそりした男が、福田の食べっぷりと、骨だけになった皿をジット見ている。福田が相手の皿を見ると、彼の魚は身も骨も散らかり、まるで猫が食い散らかしたように乱れている。そういえば、箸の持ち方も変だ。その男が口を開く。

 

 

 

 

 

 

「君は、なんという名前だい。俺は、横山隆史というものだが」

東京弁で話す、やけに高飛車な男だ。だが、顔だけは柔和で、ニコニコとして語りかけてくる。歯も白くて、大変に清潔そうな好印象の男だ。

 

 

 

 

「はい、今年意匠科に入った、福田英二という者です。どうぞ宜しく」

「君は、魚を綺麗に食べるねー。魚を綺麗に食べる人は精力家だと言うから、きっと君は精力家なのだろう。どこの高校から来たのだい」

「丹波篠山から更に奥の、西脇という山国からですわ。お宅は、東京からですか」

 

 

 

 

「私はだね、君。栃木県は茂木という町から麻布高校に入って、東大を受験したのだぜ。工学部の機械科に受かっていたんだが、焼き物がやりたいので、この大学に入り直したという訳さ」

これが栃木なまりなのだろうか、彼は「キミ」と言っている積もりなのだろうが、福田には「チミ」としか聞こえない。笑いを堪えて、チョット突っ込んでみる。

「スゴイですねえ。どうして、あの東大を蹴ってまでして、ここに来られたのですか」

横山は、よくぞ聞いてくれたと言う風に胸を張って答える。

 

 

 

 

「僕は、チミ。将来は陶芸作家で有名になることを目指しているからだよ。なに、この大学もいずれ辞めて、京都の著名な陶芸作家に弟子入りしたいと思っている、という訳さ」

このときの福田は、心底からこの横山と言う男に恐れをなした。堂々とした風貌に柔和な顔相、艶のある大きな声、加えて東大に合格したという学力、そして将来は作家を目指すという。そのどれをとっても、福田にはないものを持っていたからだ。

 

 

           

 

 

 

 

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