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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  8.「 傀  儡 」 Back Number 保存庫 

 

 

 

 

             

2.恐怖の下宿屋

 

 

  

 

 

  福田英二は、実家からは大学に通えないから、大学の厚生課から紹介してもらった、大学の近くにある、普通の家に下宿することにした。その下宿先は、瓦屋根の付いた土塀で家の敷地の回りが囲んであり、立派な門構えの、京都風の堂々たる大きな家である。しかし、土塀の白壁が所々剥がれたり、崩れたりして相当に痛みが激しい。ご主人が脳溢血で10年前に急死され、女主人と、嫁に行き遅れの眼鏡を掛けた見栄えのしない一人娘、それにおばあちゃんという、女ばかり三代の家庭になってしまっていたからである。女主人は、立木洋子という。家計の助けになることと、用心棒代わりに学生を下宿させていたのだ。割り当てられた部屋は、この家で一番に眺めのいい、回りに廊下の付いた62間だ。学生にしては随分と贅沢なものである。だから、部屋代も、2,500円と高い。ここの家の一番に良い部屋で、亡くなられたご主人の部屋だったという。

 

 

 

 

 

福田の家は、父親が神経症を患ってからというもの急速に貧乏になっていた。父親が商売をして貯めていた金を取り崩して生活していたからである。だから、奨学資金を日本育英会から貰っていた。しかも、特別奨学生であったから、当時の金で、毎月8000円を貰っていた。これは、高校の時に、先生の薦めがあって試験を受けて目出たく合格して獲得したものだった。受験した同級生8名の中で、合格したのは福田だけであったという。知能テストのような設問だったが、彼はこの種の問題は大得意だった。因みに学校本来の知能テストでは、福田はダントツでNO.1を誇っていた。だから、この結果を友人達は認めざるを得なかったのである。大体月に3,000円もあれば暮らせた時代だから、8,000円は大金である。しかし、2,500円の下宿代では、授業料と部屋代を払ってしまうと、もう生活が成り立たなくなる。

 

 

 

 

 

高いことに加えて、この下宿先には、大変な問題あった。それは、ある夜に突然にくる。この下宿先に入ってから、月が終わろうとする、四月下旬頃のことだ。蒸し暑い或る夜の深夜1時頃のことだ、彼が寝ている部屋に、誰かが忍んでくるような音がする。月明かりで見ると、眼鏡を掛けた若い女の姿がうっすらと目に入る。部屋の障子は雪見障子というのか、下がガラスになっているから、素通しで見える。ここの、一人娘の立木珠恵だ。這いつくばって、彼の寝ている部屋の障子をソオーと、開けている。女の夜這いだ。彼は、ゾオーとしたが、緊張したまま狸寝入りをしている。

 

 

 

 

 

「英二さん、私よ珠恵よ。抱いて欲しいの、だから来たのよ。お母さんから言われたのよ」

押し殺した小声で意志を伝えている。しかし、福田英二は、狸寝入りをしたままで、何も言わない。スーコ、スーコと鼻腔からの鼻息だけが聞こえる。どうしょうも出来ないからだ。すると、それを良いことに彼女は、シミーズ姿のままで、彼の布団の中に入って来るではないか。とうとう、耐えきれず、布団から彼は飛び出す。

 

 

 

 

 

「何をされるのですか。冗談は止めてください。本気だとしたら、許せません。さあ、家人の方が起きてこられると、変に思われますから、もう止めて下の部屋に戻って呉れませんか」

彼女を興奮させないように、穏やかな小声で、福田は彼女を諭す。珠恵は、暗闇の中で福田の目を見つめている。髪の毛を振り乱したその姿は不気味で、福田の心臓も動悸を打っている。暫く見つめ合いが続いたが、彼女が根負けして、目をそらす。

 

 

 

 

「分かったわ。あなたには、その気がないのね。珍しい人ね。今までの人は皆んな、抱いてくれたのよ」

彼女はそういい残して、階段をドンドンと音を立てて下りていった。親も公認の夜這いということか。女性ながら、異常性欲の持ち主らしい。そういえば、普段から様子も変であった。顔を洗ったり、洗濯をしたりしている福田の姿を、柱の影から見ている彼女の姿を、何度も見かけたことがある。福田は、下宿代も高いこともあり、もうこんな処には居られないと、其の夜の内に、この家から出ることを決心する。

 

 

 

 

 

 

 

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