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    Back Number保存庫
 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  8.「 傀  儡 」 Back Number 保存庫 

       新しく連載が始まっています。保存庫内で、お読み下さい。 

 

 

 

             く     ぐ     つ

傀 儡

 

 

          

 

 

傀儡とは、あやつり人形のことである。傀儡師に操られて初めて、人形は生き生きと動く。

 

福田英二が荒木優子と出会い、そして結婚するに至ったのには、まるで誰かに操られているかのような、誠に不思議な運命の巡り合わせがあったと聞いている。私が彼から聞いた、その不可思議な出来事を、ここに記述するとしよう。そこには、一体何があったのか、そして彼は何をしたのか、誰に操られていたのか。さあそれでは、この物語を紐解いてみようではないか。

 

 

 

 

1.不思議な出会い

 

 

 

福田英二は、初めて京都に来た。ある国立大学の入学試験を受ける為だ。田舎に比べと、何という大都会かと、彼は内心思っている。が、田舎者と思われるのが嫌で、そのことは人には言わないでいる。何よりも、道路の巾が広く、そして舗装されているから、この都市がまるで外国映画のようだと、内心感動している。人も車も多く、桁違いに音量の高い色んな種類の街の騒音が、大都市の存在感をすら誇示している。前の日から、顔を知らない他府県からの受験生6人と一緒に、京都の旅館に泊まり、夕食も共にする。田舎から出てきたから、泊まりがけでないと試験が受けられない者達が、同じ旅館の同じ部屋に集められていたのだ。

 

 

 

 

「明日の、今度の試験には、絵画の課題もあるのだけれども、僕は心配なんです」

ある小さな顔の男が、夕食を摂りながら誰とはなしに言う。

「そう、同じように心配ですよ。数学と物理の得点には、自信があるのですが、試験で絵を描かせるというのは、全国でもここだけらしいですね。しかも配点が、数学と同じ200点ですからね。絵画の出来不出来で、もう合格は決まるのでしょうね」

 

 

福田は、何も喋らずに黙ったままでいる。彼等のなかで、東京から来たという、外人のような顔をした大変な男前の男が、自慢げに言う。北村という名前の男だ。

 

 

 

「だから、僕は先生について、デッサンから線描画までも、そしてクロッキーから油絵まで、全部を一通りものにしましたよ。ですからね、絵画の試験には、僕はむしろ自信があるのです。だけど、英語がチョットね」

皆が、福田の顔を見て、発言を促す。仕方がないから、おどおどしながら福田も話を始める。福田は、田舎育ちで、激しく人見知りをするタチであった。

 

 

 

 

「ぼ、僕は福田というものですが、絵の方は好きですが・・・・、まあまあです。だけれどもー、理科二教科の物理と化学の替わりに、僕は、生物と化学で受けます。化学だけが必須だけですから、ここは生物でも受けられるのですよ。これがどう出るか、心配なのです。それにしても、北村さんは、スゴイ男前の方ですね。しかも、先生について指導を受けられたとは、大変なものですね。もう合格されたのも同じ、じゃないですか。ねえ、皆さん」

皆も、相槌を打って同感している。別の眼鏡を掛けた子供のような顔をした小男が言う。

 

 

 

 

「今話された、福田さんも仲々の男振りですよ。僕は、福田さんの方が好きですねえ。それにしても、この学科を受験する人は、シュッとした人が多いなあ。僕は、もうホントに自信がなくなりましたよ」

福田は、この男は何を言っているのか、今まで自分がシュッとしているなどと言われたことがなかったから、大変に驚くと共に赤面して、激しく狼狽したという。ついでに、彼の名前を聞く。

 

 

 

「君は、何ていう名前なの。良かったら教えてよ。僕は、福田と言って、西脇高校出身の田舎者ですが」

「僕は、玉谷義男という者で、大阪の池田高校出身ですよ。実は、京都大学も受けたのですが、ダメでした。今度、ここもダメなら浪人ですわ。だけど、ここが合格しても、行かずに浪人して、もっかい京大を受けるかも知れないですわ。わはははっ」

 

 

 

 当時は、一期校、二期校と別れていて、受験日が異なることもあって、二つとも受験できるようになっていた。玉谷が、京都大学を受けたとなると、大変に頭のいい男なのだ、と福田は内心感心する。福田も実は、一期校の神戸のK大学理学部に合格していたが、将来の就職先のことを思うと、高校の先生として生きるしか道がないように思え、無知にも、直感力だけで、K大卒の前途に暗雲を見ていた。

 

 

 翻って、今度受ける学科には、将来の活躍先が無限に広がり、人生の明るさがあるように感じていたからだ。だから、こちら方がむしろ彼の本命だったのだ。このことは、誰にも言わずに伏せておこうと彼は思っていたという。

 

 

 

 翌日の朝、受験の教室は4教室に別れたが、偶然にもこの6人は同じ教室で入学試験を受ることとなる。そして、ついに絵画の試験の番がくる。

 

 

 

 「ガラスビンの左に消しゴムが置かれている。そして右上から光が当たっている。これを想像して描きなさい。ビンの形は自由でよい」というものだった。福田の隣にいる、男前の北村が舌打ちをして独り言をいっている。

 

 

 

 「しまったぜ。ビンだけは描いたことがないからなあ。まいったなあ」

普通の設問ではないから、人のを見ても、どうしようもない。カンニングも出来ない。北村は、真っ黒な絵を描いている。真っ黒な画面に、うっすらと、ビンと消しゴムの形が見えている。光はない。光は、後から消しゴムで消して、入れようと考えていたらしいが、時間が来てしまい、彼の絵は真っ黒のままで、とうとう未完成となる。

 

 

 

 

入学式が終わってから、同じクラス26人が意匠科の教室で一堂に会して、顔見世となった。女性が7人と、長身のインドネシア人一人がいる。自信満々だった、あの北村はいなかったが、子供顔の小男は居た。さすがに、勉強の方での得点が高かったのだろう。福田は、彼の名前が、珍しい名前の玉谷だったことを思い出す。自己紹介で、玉谷義男の名前を確認する。彼は京大を諦めて、ここに在籍することにしたのだろう。福田と玉谷は、こうして運命の糸を手繰るようにして出会い、一生涯に於いて付き合うことになったという。彼が、神戸のK大学に入って入れば、また玉谷が、一浪して京大受験を決意していれば、玉谷義男と知り合うこともなかったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        当面毎週月曜日更新とします。悪しからず。

       

 

 

 

 

 

 

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