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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  9.「マニラの黄色い太陽 」 Back Number 保存庫
 

 

 

 121(金曜日)

 

 

 

続「マニラの黄色い太陽」

 

 

 

 

 それから、 45 年が経った頃だろうか。会社に出勤していた私に、秋のある日の午後、前触れ無く突然に国際電話が入ってきた。心当たりが全くなかった私は、周囲に気遣いしながら、おそるおそる電話を取った。すると、声は外人の女性ではないか。ゆっくりと喋ってはいるが、欧米人とは異なるイントネーションだ。

 

 

 

  Hi Dan, Don't you forget me, Dan ?   I am Linda, you know.   Please remember to me, I'm Linda.  I'm calling on you From Manila, Just now,   you know , my Darling!! Dan.

 

 

 

 マニラのリンダだ。鼻に掛かった、ダーリンという呼び声で、私は間違いないと確信した。続けて、溜めていた一杯の心を吐き出すように彼女は喋ってくる。会社の、他の連中も聞いているから、迂闊なことが喋れないので、「フンフン、イェアー、イエース」とだけで相槌を打って、彼女の話を聞いてやる。

 

 

 

  ‘Cause I am your lady and you are my man. Whenever you reach for me I’ll do all that I can. We’re heading for something. Somewhere l’ve never been. Sometimes I am frightened. But I’m ready to learn of the power of love.The sound of your heart beating made it clear. Suddenly the feeling that I can’t go on is light years away.

 

 

 

 あの時のことを、思い出して言っているのだ。貴方が私の中に来てくれたとき、我を忘れて、星となって宇宙を彷徨っていたというようなことを言っている。まさしく、黄色い太陽の唄。その時の彼女の姿態を、私も思いだして赤面してしまった。人に聞かれたら大変に困る話だ。

 

 

 

And are you OK, Llinda!  What Business , to me.

 

 

 

 彼女の話はこうだ。私と別れてから、何とその年の10月末に男の子を出産したのだという。私との子供らしい。だから今で5 歳になり、その教育と養育費について相談がしたいと言うことなのだ。本当に私との子供かどうかを確認したいのならば、写真を送るから住所を教えろ、と要望もしている。ここの会社のことを、どこで調べたのかと不思議に思って聞いてみると、あの時に私が一言漏らした、会社の名前のことを覚えてメモをしていたのだという。そして、とうとう一昨日、国際電話を掛けて、覚えていた社名で KDDに番号を調べて貰い、当社の電話を知った。最初に、当社の国際部に電話を取り次いで貰い、覚えていた私の特徴を話して、とうとう会社の私のフルネームと内線電話番号を知ったのだという。まさしく、青天の霹靂というか、女の執念である。

 

 

 

 

 それから一週間後に、写真の入った手紙が届く。まさしく私の子供だ。上の子供とは丁度三つ違いとなる。私は、激しく自責の念に駆り立てられ、家内にも全てを話して許して貰い、家内の物事に動じない広い心と寛大な気持ちのお陰で、子供を引き取ることに無事に決着した。丁度、株で儲けて家内には内緒にしていた金から、 500 万円を今まで育ててくれたお礼だとして、彼女にブレゼントした。リンダは泣いて喜んでくれた。リンダの他の三人の子供に比べると、一番に可愛くて頭の良い子供なので、寧ろ日本に返して育てた方がこの子のためになると、リンダも思ったのだそうだ。母の真の愛かも知れない。

 

 

 

 

 この子どもを引き取ってから、なんと言うことか、この機を境にして私の人生は一変する。何をしても上手くいき、金も財産も溜まるようになった。お陰で、今や家を三軒持っている。彼は、日本の国立外語大学を卒業して成人してから暫くして、マニラで旅行代理店を経営するまでになった。無論、母親のリンダも協力して呉れたらしい。日本人をマニラに呼び込んで観光事業をしているのだ。来年からはホテル事業にも手を出すという。こういう内容の彼からの電話を受ける電話のベルの音で、現実にも今鳴っている電話のベルの音で、何故か急に私は目覚めて我に返った。ここは前の儘の、自分の家だ。なんと言うことか、夢を見ていたのだ。

 

 

 

 

 私のホームページに埋め込んであるセリーヌ・ディオンの Power of love 」を洋間に石油ストーブを炊いて、先程から聞いていたのだが、ストーブから出る炭酸ガスのせいだろうか眠くなり、ついウトウトとして眠ったらしい。ホームページから流れてくるディオンの魔力のある歌声と、リンダの電話の声とがダブり一緒になってしまったに違いない。そして、今までのストーリー画像が脳の中に流れ始めたのだろう。彼女の唄には魔力があるとは聞いていたが、これほどだとは知らなかった。諸君、是非とも私のホームページでディオンの曲「Power of love 」を聞いて確かめて呉れ給え。虚の頁の方の、最後の泡、Essay by Dan BGM として入っている曲だ。では、では、諸君さらばじゃ。現実と虚とを決して混同してはならないぞ

 

 

 

 

 

 

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