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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  3.「そして悔恨の日々」 Back Number 保存庫

        

 

         

6.篠原の退院

 

 

予定通りに、それから3週間して、篠原は退院してきた。田淵が嗅ぎ廻っているのを猪口良子の連絡で知った篠原は、自分の身に嫌疑が掛かっていることを感づいていてからは、尚更心配で、じっとして居れなかった。

 

 

かんかん照りの晩夏の暑い日に退院した篠原は、翌日には、もう早速に出社する。社長に話が、既に届いているかも知れない、という疑念が起こって、自宅にジットしておれなかったからだ。勿論、何を差し置いても、江嶋社長の処に伺っての退院挨拶だ。その他の役員連中の部署にも訪問して、背中を丸めて手揉みしながら、精一杯の笑顔を作り、ニコニコして、ガラガラの大声で退院の挨拶をして、相手の反応を確かめている。

 

 

篠原の挨拶は、誰にも同じで、型通りである。感づかれてはいないか、と確かめるのが目的だからだ。

「大変に長い間、留守に致しまして、ご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ありませんでした。これから頑張りまして、その分を取り返しますので、どうかお許し下さい」

 

 

役員の皆が言うことは、

「早く退院できて、良かったねえー、篠原君。余り無理をしちゃあいけませんよ。しかしねえ君、酒も程々にして呉れないと、これからはだね、困るよ」

と、また殆ど同じだ。感づかれてはいないようなので、心底、ホットする。

 

 

編集管理部の部署には、出社して2時間ほど経ってから、戻ってくる。先程とはまるで異なる憮然とした表情で、病み上がりの青い顔色で、しかめ面をしている。そして、主立った幹部を集めて型どおりの挨拶をする。

 

 

次ぎに、ドサッと自分の往年の部長席に座る。席に着いた彼の姿は、何故か一回り小さくなった様に見える。しかし、田淵とは、決して視線を合わせようとしない。かなり重傷のようだ。

 

 

『自分の心の作用なのに、私の所為にするつもりのようだな。私の知ったことではないわさ』田淵は、彼の表情から心を嗅ぎ取ろうと凝視。すると、感づいたかのように篠原は、突然に言ってきた。

 

 

「田淵君、大滝君と同行して、大宮の鈴木製本で、女子産業編の製本チェックをしてくれたようだが、どうだったかね。何か感想は、ないのかねえ」

「ええ、ちょっと大変な製本会社ですね。部長の義弟がやってらっしゃる会社ですってね。吃驚しましたよ」

田淵は、一寸カウンターを利かせてみせる。

 

 

「さよか、それだけか。ああ、それから田淵君。君のこれからの仕事は、制作拠点の統括をして貰うので、印刷管理の仕事はだね、担当をはずれて貰いますよ。印刷管理の仕事は、大滝君にやってもらうことにしたからな。それから、大滝君は、この91日付で、編集企画部の次長職に昇進することになっているから。君も宜しくな。」

 

 

そこにいる幹部には、あらかじめ話がしてあったのか、吃驚もせず平然と聞き流している。知らなかったのは田淵だけのようだ。田淵は、突然にアッパーカットを喰らったかのような衝撃がして、頭の中がクラクラとした。そうか、それで視線を避けていたのか、と後から気づく。

 

 

『入院している間に、久保田も交えて皆と作戦を練ったという訳か。篠原の自宅に行ったとき、文子が私に言っていたのは、このことだったのだな。やられた。作戦負けだ。何だと、制作拠点の統括だと。私が前職の時、苦労して作り上げた組織で、これはもう済んだ仕事だ。これじゃあ、閉職じゃないか。江嶋社長もご存知のことなのだろうか。もう遅いか。いや、それでも一言だけは、確認したい』

田淵は、取り乱し自問自答する。

 

 

「このことは、江嶋社長もご存知のことでしょうかね」

「何を言っているのだい、君は。これは、部内の担当の変更だからな、社長の承認もへったくれもあるものかい。私の一存で、全部できることなのだよ。尤も、先刻、江嶋社長の部屋に伺ったときには、一言だけ報告はしておいたがね。どうだい、田淵君。もっと良く勉強し給え」

 

 

 

 

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