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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  7.「いのちの電話」前編  Back Number 保存庫

 

 

 

               

 

                 

5.マドンナの秘密

 

 

 

 

名取祐子似のマドンナは、いつも快活で、言葉も歯切れが良い。鼻が細くて高い。上唇が少し突き出している。目元は大きくて爽やかだ。ウィークエンドの今日は、仕事が早めに終わって、沢田は、いつものように「鳥清」通い。何故か、今日は、沢田だけが1人で来ている。会社の連れは、まだ残業をしており、来られないからだ。1人なので、座敷席でなく、珍しくカウンター席に陣取る。そして、マドンナと視線を合わせ、注文する。

 

 

 

「マドンナさん、えーっと。取り敢えず、冷えたビールとねえ、焼き鳥の盛り合わせを頂きましょうか」

「はあーい。分かったわ。マスター、マスター。沢田さんの注文お願いね。ビールと盛り合わせ一丁です。沢田さん、まあ、今日は、お1人とは、珍しいのねえ。憲さん達は、どうしたの」

 

 

 

言いながら、沢田の左横から、沢田の前のカウンターのテーブルを拭くが、彼女の右の脇腹を沢田の肩にわざと押しつけるようにしながら右手を伸ばして、仕事をする。ややもすると、彼女の右胸のオッパイが沢田の背中に触れているのが感触で分かる。彼女のパフュームも沢田の鼻をくすぐる。まるで、何かの信号のようだ。

「ええ、憲さん達は、今日は残業で、来られないようですよ。だから今日は、私1人です」

「たまには、1人もいいじゃないの。ねえ、マスター」

マスターも、沢田と視線を合わせて頷いている。3割方、席が埋まっているが、辺りを見回した沢田は、ちょっと場違いなものを見つける。

 

 

 

 

一番奥のカウンター席に、小学校23年生位の男の子連れの、男性が座っているのを、沢田は見つける。その二人は、親子ではない、友達でもない妙な二人連れである。子供の方は、焼き鳥のつくねをおかずにして、ご飯を食べており、男は、コップ1杯のビールを前に置いて、チビチビ飲みながら、焼き鳥の盛り合わせをおかずにして、矢張りご飯を食べている。食べながらも、マドンナの方ばかりに、頻繁に視線を送っている。服装も、何故か、厚手の防寒服を2人共、着込んでいる。

 

 

 

 

丁度、沢田が注文した、ビールと盛り合わせを運んで来てくれたので、不思議な2人連れのことを、マドンナに、沢田は聞いてみる。

「あの人達は、どちらさんですか」

「ああ、あの子は、私の子供なの。小学2年生なのよ、卓也という名前よ。可愛いでしょ」

「男の人は?」

「私のBFなの。今夜から、車で夜の間に走って、土曜日の朝早くから、若狭湾で海釣りをするのだって。月曜日も休みだから、明日から3連休でしょ。卓也も連れて行ってくれるのよ。それで、一緒に食事をしている、という訳なの。男の子は、魚釣りが好きだからねえ。鈴木さんが、ウチの子供にも教えてくれるのだって」

それだけを言って、マドンナは、忙しく次の客の注文を運ぶ。殆ど、その男の方には、意識して、見ないようにしている。しかし、鈴木とかいう男の方は、まだ彼女に視線を送っている。その内、2人連れは、食事を終えて、マスターに勘定を払い、席を立つ。

 

 

 

 

「じゃあ、僕らは、今から出発するからね。英子さん、卓也君は、しかと預かりましたからね。じゃあ、卓也君、出発するぞ。いいかい」

そうとだけ、マドンナに言って、外に出る。子供だけはニコニコして、マドンナに手を振っている。マドンナも、首を左に傾げて、にっこり笑って、子供に手を小さく振る。他の客も、その場の、3人の遣り取りに視線を送っている。

マドンナと沢田の話を聞いていた、隣の客が、自分の連れと話している。

「今頃は、小アジが良く釣れるからなあ。小浜だったら、堤防の先の、長い、長い岸壁の処が一番良く釣れる場所なんだよ。あそこは、いい穴場だよ」

小浜に行ったことのある客だろうか、隣連れに、饒舌に喋っている。話題も、それっきりで、そして店の客は、元の世界に戻る。

 

 

 

沢田は、つくねと焼酎の烏龍茶割りを追加で注文する。焼酎だけを、先に運んできたマドンナが、沢田に小声でいう。

「ねえ、沢田さん、聞いてくれる・・・・。私ねえ・・・、困っているのよ。あの鈴木と言う男はね、子供を出汁にして、私のことを狙っているのよ。ここ3カ月ばかり、あの調子なの。琵琶湖に連れて行ったり、大阪の南港の方に連れて行ったりと。子供は魚釣りが大好きでしょ。そう言っては、私の住んでいるアパートまで来て、子供を連れに来るのよ。どうかすると、部屋にまで上がり込んでくるから、本当に困っているのよ。沢田さん、どうしたら良いと思う」

 

 

 

 

顔をしかめて、真顔で言うから、冗談でなくホントのことらしい。沢田はどうしていいか分からないから、取り敢えず答える。

「そうですねえ、あの人がどういう人か知りませんが、ハッキリ仰れば良いのでは、ないでしょうか。もっとも、あの方とあなたとの間で、貸借関係か何かがあれば、それも難しいでしょうがねえ」

そして、マスターの「つくね1丁上がり」、という声でマドンナは席を離れる。

沢田の前に、でき立てホカホカのつくねを運んできて、先程の話の続きを、マドンナが話しはじめる。

 

 

 

 

「そうなのよ、図星だわ。クラブ時代のお客様だった人なの。ちょっとね、お金を用立ててもらったのよ。よく分かったわねえ。だけど、ホント、しつこいのよ」

そう言って、沢田の前に、つくね3串を載せた皿を置くときに、前と同じようにして、わざと沢田の背中に、英子は自分の胸を押しつける。

「ねえ、沢田さん、どうしたらいいの。マスターはねえ、ワシは知らん。としか言わないのよ。余り、言うと、じゃあ、貸した金を今すぐ返せというでしょ。困っているのよ」

 

 

 

 

沢田は、答えてる場合ではなく、胸を押しつけてくる彼女の真意を測りかねていた。しかも、今回の場合は、もろに彼女のおっぱいが、柔らかさと形まで、背中に感じられる。自分を誘う、あからさまの、意志表示だろうかと、彼女の真意を憶測する。そういえば、今日は、いつもの会社の連れは居なくて、沢田が一人で来ている。だから、大胆なことをするのかもしれない。今の状況を判断して、沢田は緊張する。そして、取り敢えず答える。

「ちょっと、ですねえ。私にも、どう答えていいか。これは難しくて、分かりませんね」

「そりゃ、そうだわねえ。私のことも、まだ充分に知らないから、当然だわねえ」

 

 

 

 

 客足が途絶え、客はとうとう沢田1人になった。今日は金曜日なので、遅くてもいいと沢田は思っていた。マスターも手を休めて、カウンターの中から、沢田の方に寄ってくる。マドンナは沢田の隣のカウンター席に座る。頃合いを見てマスターの中田肇が、あろうことかマドンナの秘密を、真顔で喋り始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

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