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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  6.「人生の小劇場」  Back Number 保存庫

                  

 

 

               

5. 池袋「ラメール」の場

 

 

 

 

島村が指定した、その喫茶店「ラメール」は池袋の駅前にある有名な大きな店だ。この付近に取材にいった帰りに、中田もよく利用していたので、「ラメール」の場所は知っている。少し早すぎるかなとは思ったが、10分程前に店に入ると、ルビーネット社の茶封筒を持った男が二人、もう既に、入り口のドアの方を向いた、目立つテーブルに、並んで席に座り待っている。若い方が島村か、もう一人の方は誰なのだろうか。

 

 

「お待たせ致しました、私がロイド社の中田です。そちら様は、ルビーネット社の島村達雄さんですね。お越しいただいて大変恐縮です」

そういって名刺を交換する。中田が、名刺を見ると、年齢が345歳の若い者が、やはり島村達雄だ。40歳過ぎの方は、営業課長の佐藤良樹となっている。

 

 

 

『北村所長の下の課長で、島村達雄の上司に当たる男だな。北村所長に言われて、2人連れで来たのか、敵は』

こう中田は推測する。

 

 

問題の佐藤が言う。

「上司の北村所長はんからも中田副部長に宜しくといって、名刺を預かってきましたんや。これですわ、どうぞ」

といって、佐藤が北村修三の名刺を差し出す。名刺には、ボールペンで、「何卒、穏便に治めてくださるようお願いします」と書いてある。彼の自筆か、「る」の字が「3」の字に、「だ」の字中の「こ」が「て」になって見える、妙にクセのある字で、書かれている。

 

 

 

「中田副部長はん、えらいことをしてくれはりましたなあ」

ひどい関西弁なまりの佐藤が先に口火を切る。

『何を言っているのだろうか。えらいことをしでかしたのは島村のほうだろうが、寝ぼけた野郎だな、こいつは、でも何のことだろうか』

中田は、まず聞こうと思う。

 

 

 

「中田はん、島村達雄さんはですなあ。親会社の近畿商会の次期社長との呼び声の高いあの島村常務さんの大切な一人息子さん、なんですわ。その島村常務さんに今回の全裸写真投函事件の一件が、全部バレてしまったんでっせ。あんたが、北村所長に、あんなことをペラペラ喋るから、あんたが話した内容が全部、所長の口から島村常務はんの耳に入ってしもた、という訳ですわ。どないして呉れはりますねん」

そう言うことか。それでどうなのだと、中田は思う。

 

 

 

「しかし、お言葉を返すようですが、えらいことをしでかしたのは、島村達雄さんの方でしょ。その為に、今日は来てもらったのですから。お宅は、何を言っているのですか」

中田は反論する。

 

 

 

「それは、仰る通りですわ。達雄さんも、自分が撮影して送った写真や、と言うておられます。それから大変に、反省もされて居られます」

島村本人でなく佐藤良樹が説明する。しかも、部下の島村達雄に対して敬語を使っている。間接話法で、話が変なぐあいだと、中田は思う。そこで、島村から直接に話が聞きたいので、中田は、島村の方を向いて、金村から預かった写真1枚と手紙を、彼に直接見せて聞く。

 

 

 

「島村達雄さん、この写真と手紙が、投函されていたものです。写真は、本人のプライバシィーを保護する為に、残りの9枚はお見せできませんが、手紙は、本物です。先程、佐藤さんが、言われたように、貴方がした事なのですね。ご確認ください。何故、こんな馬鹿なことをしたのですか、まず、正直にその間の顛末をご説明いただけませんか」

 

 

 

「ぼ僕と、」

緊張の余りか、青ざめた顔で少しずつ、彼は話し始める。

「金村洋子とは、2年間、僕の杉並の4DKのマンションで同棲していました。女房と離婚してスグに、新宿のパブで洋子と知り合ったのです。僕はポルシェのシルバー・メタリックのスポーツクーペに乗っていましたから、車好きの洋子は、すぐに僕のものになりました。それからのことです。洋子とのことは」

「そういうことですか。なるほど、で、それで」

 

 

 

「つい最近までは、洋子とはホントに楽しい日々で、結婚もしたいねと、お互いそう思っていました。そんな期間です、あの写真を撮ったのは。洋子とも合意の上で、自動シャッターで撮影したものです。彼女もアレが好きで、写真を撮られると返って興奮するからといって結構、撮られるのを喜んでいたのですよ。ところが、彼女がロイドの新宿勤務になった頃から、彼女の態度が微妙に変化してきたのです。本当ですよ。僕は、きっと男ができたのに違いないと、睨んでいたのですがね。もっとも、そのキッカケとなることが別にありましたが。これについては、後で話します」

 

 

 

「ところで、貴方の前の奥さんとの間に、お子さんはおられないのですか」
中田も聞いてみる。

「はい2歳の男の子が1人おりまして、京都の実家の母がこの子の面倒を見て呉れています。島村家の跡取り息子ですから、大事に、大事に育てられていますよ、あの子は。でも母は、洋子との結婚は、絶対に許して呉れませんでした。島村家は、京都の旧家なのです。中田さん、金村という姓ですから、解るでしょ。金村と一緒になりたいのなら、籍を抜いて出ていけ、と父にもいわれました。しかし、僕は、今の生活レベルからは抜けられません」

 

 

 

『親の考えも古いし、こいつも、根っからのお坊っちゃま、なんだ』

と、中田が思う。

「僕とはもう、結婚ができないと分かると、洋子は、とうとう僕の杉並のマンションから出て行ってしまったのです。これがきっかけです。でも、洋子の住んでいた板橋のマンションの前で、とうとう洋子を見つけ出し、僕は土下座して、縒りを戻してくれ、そして僕のところに帰ってきてくれと頼んだのです」

 

 

 

「だけど、洋子は腕を胸の前で組んだままで、ペッと唾を僕に吐きつけ、自分の地を晒け出して、可愛い顔に似合わぬ柄の悪い言葉付きで、こういうのです。『ブタ野郎、オメーエなんかに、もう関わり合いになりたくも、ネエーんだよ。もう、帰れよ、オメーエなんかよりも、ずっといい男と、今は一緒なんだぜ。もうお前のアホ面を見るのも沢山だよ』と。そして、土下座している僕の頭をハイヒールの靴の先でググッと踏み付けたのですよ」

 

 

 

これ以上の侮蔑はないと、中田も思った。

「それで、僕は頭に血が上り、いずれは、この写真を世間にもばら撒いてやるぞという意味をこめて、先ず彼女に仕返しをしてやろうと思って、衝動的に手紙と一緒に、この写真を彼女のマンションに郵送したのです。他にも、まだ写真はたくさん持っていましたし、ネガも持っていますから、1月単位にして、2回目、3回目とに分けて送りつけて、嫌がらせをしてやろうと考えたのです。これは、10日前に私が、板橋3丁目の彼女のマンションに郵送したものに、間違いないです。写真も、手紙も、その時のものです」

 

 

 中田は自分の耳を疑った。彼は、10日前に、これを金村の自宅に郵送したと言っている。どうなっているのだ。金村は、そんなことは、一言も言わなかった筈だが。

「えっ、何を言っているのですか。これは、当社の会社の一階にある、郵便受けに入っていたものですよ、しかも、一昨日の朝です。今、金村のマンションに10日前に郵送したと言われましたが、それは本当のことですか。もう一度、手紙と写真をよく確認してください」

 

 

 

「よく覚えていないので、手紙がちょっと違うような気もしますが、写真はその時、金村の自宅に、10日前に投函したものに、間違いはないです。でも、北村所長からは、投函されていた写真とだけ聞いて、ロイド社の郵便受けだったとは一言も聞いていませんでしたが。私は、てっきり金村の自宅に送った、この写真のことだと思っていました。すると、誰かが、この写真と手紙を金村の家から持ち出して、おたくの会社の郵便受けに投函したということになりますね。金村洋子がそんなバカなことをする訳がないし、誰でしょうかね。いずれにしても、僕は、おたくの会社には、投函はしていません。撮影はしましたが。これは、断言します」

 

 

 

『何を言い出すのだ、この男は。郵送したのが金村の自宅だったと、先に結論を言えよ』

と、中田は頭が爆発しそうになる。

再び島村は、先程の話をくどくど、話し続ける。

 

 

「北村所長からは、君の撮影した写真が投函されていたとだけ聞いたので、てっきり金村の自宅に投函した、このことだとばかりに、僕は理解していました。すると、投函した犯人が別にいるということではないですか。中田副部長さん、ロイド社の郵便受けに投函した犯人は、別途に探していただくとして、この手紙と写真は、僕が金村に出したものに間違いはありませんので、いずれにしても、今回の事件の大半は、僕に原因があると思います。そして、今では大変に反省しています。北村所長に電話で、中田副部長さんが言われました様に、今後、金村洋子に会わないし、付きまとうことも、報復することも一切いたしません。中田副部長に誓います。僕でも、男の約束がどういうものか位は、自分でも分かっていますから。はい、このネガも、残りの写真も全部をお返しします。洋子に返してやってください。でも、ロイド社に投函した犯人は絶対に見付けて下さいね。でないと、僕も納得がいきません」

 

 

 

『そう、これでいいのだ。お坊ちゃまの言質も取ったし、ネガも写真も全部を回収できた』

中田は、小躍りする思いだ。

『しかし、誰だろうか、投函したのは』

 

 

すると今度は、連れの佐藤がまた、しつこく話し始めたではないか。

「中田はん、昨日の夕方ですわ、島村常務はんから、私に直に電話があったんですわ。私は、常務はんから、えらく怒られたんでっせ。あんたが、北村所長はんに余計なことを喋ったばっかしに。所長はんに言う前に、なんで先に私に、直接に話して呉れはりまへんでしたんや。わては、近畿商会から、この営業所に出向するときに、島村常務はんから直々に、この人の行動をキチッと管理をしなはれやと、言われてたんでっせ。せやから、今度の事件で、私が、その責任を今、問われてるんですわ。それからでんな、えげつないこの写真投函の話も、親会社の近畿商会幹部の主だった連中のところにも、全部伝わってしもたんですわ。せやから、次期社長の呼び声の高い島村常務はんも、立場がおへん。もうえらい騒ぎで、大変なことになっているのですわ。あんたが、所長に言い付けたせいでっせ。

せやから、私は、立場がおへんのどす。どないしてくれはりますねん。中田はん」

彼は、京都風の関西弁で、えらく興奮して捲し立てる。

 

 

 

「そんなことは、お宅の社内の問題でしょうが。北村所長が、詳しく言わないと島村さんに会わせないと言われるから、話したまでです。故意に、悪口を言い付けた訳ではありませんよ。何よりも、今回の事の原因は、ここにいる島村達雄という人が作ったことです。何を言っているのですか、お宅のいわれることは、本末転倒じゃないですか。それから、島村さん、先程の写真と、手紙はもう返しください」

中田もこう反論して、佐藤との論争を避け、写真と手紙を取り返し、今日の話し合いをひとまず終結とする。

 

 

 

 

 

 

 

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