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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  6.「人生の小劇場」  Back Number 保存庫

 

 

 

                

 

                 

12. 「パネル・ディスカッス」の場

 

 

 

 

下りた幕の後ろでは、舞台に机を半円形に並べ、準備が整えられる。ひとしきり、拍手が終わると、幕間から「アクア劇場」の支配人の田辺康平が、舞台に現れて言う。

 

 

 

「以上で、人生の小劇場は、無事に終了致しました。長時間に渡ってご観覧頂きまして、誠にありがとう御座います。それでは、30分の休憩の後、ここに登場された主な出演者諸君に、もう一度お集まりいただき、プロデューサーである秋山浩一氏の司会により、予定通りに『パネル・ディスカッス』を開催いたしたいと思います」

 

 

 

休憩の後、「アクア小劇場」の幕が、かすかなウィーンというウインチ・モータの音と共に、再び上がる。舞台には、先程の出演者が、全員揃って既に椅子に座っている。先程の観客も、殆ど帰らずに、元の席に座っている。観客席は、ほぼ満席のままである。

 

 

 

先程の田辺支配人が再度出てきて、挨拶をする。

「観客席の諸君、ここからが本番ですぞ。しっかりと噛み締めてお聞きいただきたいと思います。さて、このパネル・デスカッス にご登場の諸君は、ここでは、今のお気持ちを、正直にご発言していただきたい。私は、[人生の小劇場] の支配人の田辺康平です。念の為に、登場人物を、確認いたします。中田純一氏、金村洋子氏、沢木健氏、北村修三氏、佐藤良樹氏、島村達三氏、以上6名の方々です。それでは秋山浩一氏どうぞ、司会をお願い致します」

 

 

 

司会/ 先程、ご紹介にあずかりました、プロデューサーの秋山です。本日は皆様、「人生の小劇場」の名演技をありがとうございました。この場をかりまして厚く御礼を申し添えます。では、早速ながら、佐藤氏にお尋ねします。もし、中田純一氏が、あなたに直接電話していれば、どうなった、でしようか。

 

 

 

佐藤/ そこなんですわ、私が言いたいのは。私が最初に、中田はんから直接にこの話を聞いとったら、島村達夫はんのスキャンダルは、全部でっせ、わての腹に収めて、勿論、北村はんにも、島村君の父親はんにも、一切、何んにも話ししまへん。そやけど、達夫はんとはでっせ、じっくり話もして、この物語の結末と、おんなじ様に反省もさせて、金村洋子はんを二度と追い回さないようにもさして、ネガも取り返して、彼女に戻すということで、同じ結末にしたと思いますわ。せやから、わてが自殺する、いうことには、ならへんかった筈でっせ。せやよってに、一番悪いお人は、そこにいる中田純一はんどすわ。ほんまに。困ったお人や。恨みまっせ、ほんまに。

 

 

 

中田/ いえ、違います。あの場合でも、北村氏がこの事件を自分の昇進の道具にしようとさえしなければ、つまり島村常務に恩を売りつけ、自分が近畿商会に戻るためにという汚い工作をしなければ、なにも佐藤氏は自殺にまで追いやられることには、ならなかった筈です。また、管理責任と称して、佐藤氏をむりやり、厳しく糾弾したことも、ご存じのように全部が、北村修三氏の保身から出たことです。だって、そうしなければ、彼は逆に所長としての、自分の管理責任が問われると考えたからです。加えて、彼は、問題の写真を金村のマンションから盗み出して、ロイド社に投函するという、汚い工作までも行っていたのですよ。従って、この北村氏の方が、断然に悪人だと思います。それよりも、何よりも、元々の原因を作った、そこにおられる島村氏が実のところ、一番悪い人だと、私は思いますが。

 

 

 

金村/ そうじゃありませんわ。私が悪かったのです。親に結婚を反対されたからといって引き下がるような島村さんに愛想をつかして、島村さんに唾を吐きかけ、靴の先で、彼の頭を踏みつけるというような、卑劣なことさえ私がしなければ、彼も逆上しなかったでしょうし、今回の事件そのものも、実は起っていなかった筈ですわ。本当は、一番、彼を愛しているのですもの。好きよ、島村さん。ゾクッとするわ。それから、中田純一さんの推理のように、私は、サイド・ビジネスをしていました。取材先で知り合った顧客のうちで意気投合した人が私の客となりました。しかし、これは私が生きる為にしていることで、客に喜びを与えこそ、誰にも迷惑はかけていません。ですから、この事件とは無関係ですし、法律上は別にして、悪い事ではないと思っていますが。

 

 

 

司会/ なるほど、そういうことですか。島村氏はいかがですか。

 

島村/ いえ、やはり私が一番悪くて、そして後は6人に玉突きのように累が及んでいったのだと思います。しかし、もっといえば、私の親父が金村さんとの結婚を承諾さえして呉れていれば、誰もがハッピーになった筈ですから、結婚に反対した、私の親父が一番悪人だと思われます。しかし、今回のように話が大事(おおごと)、となり、錯綜したのは北村修三氏がした工作ですから、これについていえば、彼も小悪人だと思います。けれども、結局のところ、話が大きくなった御陰で、返って私も親会社に戻れるようになった訳ですから、彼の罪はもう問いませんよ。それより、やはり事の発端を起こした私がこそ、一番に悪いと思っています。

 

 

 

沢木/ 実は、この物語の中で島村達夫氏が電話で言っていましたが、聡明な中田純一氏も一部分、気が付いておられましたが、私と北村氏とは親戚で、以前からお互いによく知っている間柄です。北村修三氏を、近畿商会の本社に戻すためには、どうすれば良いのかという、この命題に対して、北村氏と常に連絡を取り合って内密に相談し、知恵を絞ったのが私です。事を社会的にも、大きくすれば恩も大きくなる筈だと、筋書きを書いて、仕組んだのが、実はこの事件だったのです。島村氏が金村洋子さんの写真を撮っていることも、探偵社に調べさせて、勿論、知っていましたよ。全裸写真が投函されたと言っても、所詮は自分の会社という掌の上で起こった事なのですから、最後は私の段階で、訴えたりせずに、写真だけを処分さえすればいい訳ですから、ちゃんと逃げ道も考えた上でのストーリー展開だったのです。諸君、いかがですか、私のシナリオの出来映えは。

 

 

 

司会/ ええっ、すると、やはり、中田純一氏の推理の通りだったのですか。恐ろしい方だ、あなたは。

 

沢木/ 金村洋子さんと島村達夫氏との結婚について、結婚させないようにと親父さんに入れ知恵したのも、実は北村修三氏です。そうすれば、島村氏は頭に来て、写真を彼女の家に郵送するだろうし、そして偶然を装ってこれを北村氏が入手して、ウチの会社に投函しておけば今回の様な事件にと広がり、より島村常務への効果も大きくなると、私が筋を読んで組み立てたものだったのです。北村氏には、私が作ったシナリオ通りに行動してもらいました。だから、北村氏には敢えて、金村洋子さんのお客にもなってもらっていたのです。これは、大変に利用価値がありました。私は、心理学者ですぞ。佐藤良樹氏の管理責任に問題があるとして彼を追求していけば、この段階で佐藤氏の自殺もあるかもしれないが、それは彼の判断だし、彼の気の弱さだから仕方がない。北村氏を親会社の本社に戻すのが本来の目的だったからです。でも、ただ一つ読み違いがありました。それは、中田純一氏が気の毒にも、金村洋子さんを辞めさせたことです。私は、バイトのことまでは、ホントは指図する気持はなく、中田純一氏がどういう判断を示すか、彼の度量をちょっとテストしてみたかっただけです。辞めさせないのが、むろん正解で、私もそれを期待していました。そうしていれば、ロイド社の方は、全部が丸く収まった筈です。ですから、彼が会社を辞めることには、ならなかった筈です。しかし彼は、自分の昇進の為にと、敢えて金村さんを辞めさせました。そのことが原因で騒動が起こって、最期は責任を取らされましたが、被害者を辞めさせたという意味で、彼も利己主義の小悪人です。また、中田氏が辞めた後は、専門性の高いこの職場では、適任者として残っていたのは松田氏だけでしたから、不承不承でしたが松田氏を役員にしたという次第です。あの時、私が中田氏に言ったことは、私の本当の気持ちでしたよ。そういう訳ですから、今回の事件で一番悪いのは、誰あろう私こと沢木健です。皆さんお分かりですか。

 

 

 

北村/ 佐藤良樹氏には、全く申し訳なかった事ですが、全て、沢木健氏の言われた通りです。問題の写真は、私がロイド社に投函したものです。そうです、中田純一氏の推察の通り、手紙も私が、島村氏の筆跡を真似て、リライトしたものです。ただ、皆様に申し上げたいのですが、佐藤良樹氏は、前世で私の兄を殺しました。ですから、今回のことは、実は、その報復であったという、一面もあるのです。私は、あの世から来たタイム・トラベラーなのです。この世のことは、物語を読むだけでも、実は裏があり、更には前世まで続けて見ないと分からないという、これが「人生の小劇場」なのです。従って、一番の悪党は、あなた佐藤良樹氏ですぞ。お分かりですか、諸君。

 

 

 

全員/ 拍手、拍手、拍手、拍手、拍手、拍手。

観客/ 拍手、拍手、拍手、拍手、

      拍手、拍手、拍手、拍手、

      拍手、拍手、拍手、拍手・・・・・・。

 

 

 

先程の、支配人が再度登場して、最後に言う。

「皆様、長時間ご苦労様でした。劇はこれで、全て終ります。また、この物語に登場する会社名や人物名、そして事象はすべて架空のものです。念のために申し添えます。では皆様、今夜は、ゆっくりと、おやすみください。また、次の『人生の小劇場』は、後日、このアクアで、シリーズ上演致しますから。どうぞ、ご期待ください」

 

 

 

小さな「アクア小劇場」の幕が、かすかなウィーンというウインチ・モータの音と共に、スルスルと下がり、全ての劇が終る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           「人生の小劇場」はこれを持ちまして全て終了

    いたしました。ご愛読賜りまして、誠にありがと

    う御座います。心より、御礼を申し上げます。

       真犯人は、意外な人物でした。隠されたところ

    に真実があり、加えて前世までも読み込まない

    と、分からないということでしようか。この

    保存庫で、全編を続けてお読み下さい。    

 

 

 

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