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 田楽男の小説
小説の背景と概略紹介
                     

  

  4.「西方体験録」 Back Number 保存庫

 

 

           

(7)ニューオーリンズの似顔絵画家

 

 

 ダラスでデルタ・エアラインに乗り替え、ニューオーリンズに、1976年1月20日時間に着地。綿の積出港と黒人達の街だけでは、決してない。湾を横切る、遠くまで霞んで見える、大きな長い、長い橋。近代的なビルに、舗装されたアスファルトの広い道。着飾った、スタイルの良い街の白人達。どこにも、奴隷時代のそんな臭いはない。

 

 

  旧市街に入ると、様相が一変。道路は舗装だが、パリの街を歩いているような錯覚をすら覚える。それは、建物が、屋根裏部屋を屋上に抱え、レースの様な白い模様の化粧をした鉄の窓飾りのある、パリ好みの外観をしているからだ。綿の積み出しで財をなした、フランス人の貿易商達が当時ここに、多く住んでいたからだと聞く。フレンチ・クォーターだ。こんなところで、パリに出会えるとは、と感激

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、舗装道路には郷愁をそそる、古い形だが綺麗に化粧された市電が、ゆっくり町中を走る。エリア・カザンの「欲望という名の電車」そのままの世界だ。ここにいると、なぜか落ち着く。前世は、こんな街に私は住んでいたのかも知れない。芭蕉の植えてある、テラス風の喫茶店でコーヒーを飲む。甘ったるい、ドロッとした香りの強いコーヒー。薄いアメリカンでは決してない。日差しが強い。チカチカと光が眼を刺す。

 

 

 更に、奥に進み街の裏側に出ると、墓地がある。コンクリートで造られた小屋ほどもある大きな墓。沖縄の墓にも少し似ている。黒人達の墓だ。ハデな衣服で着飾った、何人かの黒人達が、日本人のお墓参りのように墓の廻りで集っている。カンカン照りの日中に、楽器を持って歌も歌っている。ジャズだ。正真正銘のニューオーリンズの、本場のジャズではないか。

 

 

 

沖縄とニューオーリンズは、地球の殆ど表裏程に離れて距離がある。然るに、この墓の様式が似ていると言うことはどういうことか。人間の思考や営みは、場所、人種、国家、言葉が違えども、殆ど同じなのではないか。つまり深層に内蔵されている思考回路には、人類共通の普遍的な通念があると言うことではないだろうか等と、思ってみたりもした。まだ、ジャズがもの哀しく、ヒュルヒュル鳴っている。

 

 

 

  元の旧市街に戻る。パリ風の建物の1階には、ズラッーとお店が並ぶ。食べ物や、衣服や、民芸品や、飾り物等の土産物を売っているお店が、遠くまで連なっている。アメリカ人ばかりが多く、東洋人は皆無だ。ここは、北米大陸の南端。観光客相手の似顔絵描きも多く、街中にイーゼルを立てて、客を呼ぶ。一人の絵描きが、アメリカ人の女の子の似顔絵を描いている。見るとパステル画。母親が、画面の絵と子供とを見比べてニコニコ。

 

 

 

 絵描きは、つばのピンと張ったフェルトのセピア色をした帽子を目深に被り、金縁の眼鏡をしている。ひょっと、その画家の顔を見て、私は驚愕の底へ。それは、まさしく私だ。年配のその画家は、死んだ親父とよく似た、鼻の高い、目の小さい、スルッとした顔だ。何と年を経た、私の顔そのものではないか。このニューオーリンズで時間が裏返ったのだ。長い、長いタイム・トラベルが終わって、ここに戻ってきた。タイム・スリップの穴に陥った、かのような錯覚が蘇る、まことに奇妙な体験である。

 

 

 

終わりに

 

 

 

  我々ロミーゴは、たまたま入った大学の、偶然に選択した学科で、クラス員25名の集まりである。誰がリーダーでもなく、連携している。しかし、家族にはない別種の心のネットで結ばれているように思う。我々は、若い頃、人生の勝利を夢見て、それぞれの道を歩んできた。そして、必然のように今、老いを迎えている。この先も、今迄とそんなに大きくは変わらない生活をそれぞれに引き繋いで、誰もがいずれは枯れ木となる。この先、いつまで生きられるのか、私には分からないが、好奇心の強いこの性格は、更にもっと多くの刺激を求めて、きっと彷徨歩いているであろう。エトランジェ、そしてタイム・トラベラーとなって。

 

( この作品は、2003年2月発行の「ロミーゴ文集」に寄稿したのを、今回の為に、少々アレンジし直したものです )

 

        

 

                  完

 

 

 

 

「西方体験録」は、これにて全てのシリーズが終了いたします。長い間のご愛読を、誠にありがとうございました。心より御礼を申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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