(5)器用な細工
この事件に登場する、偽装白バイや赤色灯、トランジスタメガホンのいずれもが、犯人の手作りだという。白バイは、ヤマハスポーツ350RIという普通の黒バイクの特定部分に白ペンキを塗って偽装され、赤色灯は市販品を取り付けた後、バッテリーから直接電気配線され、トランジスタメガホンもトーア製の市販品を白色に着色されたものである。電気の知識と、ある種の器用さ、執拗さが、この仕事には要求される。
家での武田さんは、競馬と映画に行く日以外は、雑誌「電波科学」を参考にしながら、自分で考案した電気回路・配線図を基にして、ステレオ・アンプを組み立てたり、テレビの故障品を無料で二台貰ってきて新品の一台を作ったり、油絵を描いたり、日曜大工をしたりと忙しいとのことだ。彼の方から、聞くともなしに、一緒に行った昼飯屋で、私に喋ってくれたものだ。
『こんなバイクの細工なんぞは、俺に取っちゃあ、お茶の子歳々だぜ』と、
彼なら言うだろうと思う。
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